November 03111997

 文化の日一日賜ふ寝てゐたり

                           清水基吉

正月と同じように、祝日を寝て過ごすという句は多い。人間には、世間のはなやぎに背を向ける「快味」というものもあるからだ。ただし、この句の作者はすねているのではない。「賜ふ」というのだから、ありがたい気持ちで寝て過ごしている。なぜありがたいのかと言うと、この日は戦前は明治天皇の誕生日で旗日(天長節・明治節)だったが、敗戦を境に軍国調は排除されることになり、祝日としてのポジションが危うくなった。それが平和憲法の公布を記念して昭和23年に「文化の日」とあらたまり、祝日として延命されることになったからである。理屈はともかくとして、休みが確保されてありがたいという気持ち。「賜ふ」の向こうには、しかし天皇の顔もあって、作者との世代の差を感じさせられる。(清水哲男)




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