October 28101997

 柿二つ読まず書かずの日の当り

                           小川双々子

の日差しを受けて、二つだけ木に残った柿の実が美しく輝いている。それなのに、作者はといえば本を読む気にもなれないし物を書く気力もない。そんな情けない日(「日」は「日差し」にかけてある)を浴びながらも、柿はけなげに自己を全うしつつあるのだという感慨。しかし、この無為を悔いる気持ちは、あまり深刻なものではないだろう。軽口で言う「空は晴れても心は闇だ」という程度か。というのも「柿二つ」は「読まず書かず」に対応していて、このあたりに遊び心を読み取れるからだ。この明るさと暗さを対比させる方法は、キリスト者である作者初期の段階から始まっている。『異韻稿』(1997)所収。(清水哲男)




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