October 17101997

 三田二丁目の秋ゆうぐれの赤電話

                           楠本憲吉

田二丁目は慶応義塾大学の所在地だ。ひさしぶりに母校の近辺を通りかかった作者は、枯色のなかの色鮮やかな赤電話に気がついた。で、ふと研究室にいるはずの友人に電話してみようとでも思ったのだろうか。大学街でのセンチメンタリズムの一端が見事に描写されている。都会的でしゃれており、秋の夕暮の雰囲気がよく出ている。余談になるが、私の友人が映画『上海バンスキング』のロケーションの合間に彼地の公園でぶらついていたとき、人品骨柄いやしからぬ老人に流暢な日本語で尋ねられたそうだ。「最近の『三田』はどんな様子でしょうか」……。街のことを聞いたのではなく、慶応のことを聞いたのである。昔の慶応ボーイは大学のことを「慶応」とは言わずに「三田」と言うのが普通であった。(清水哲男)




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