October 08101997

 竹に花胸よぎりゆくものの量

                           小宮山遠

の開花は秋。といっても、竹の花はめったに咲かない。開花すると、実を結んだ後で枯れ死してしまう。六十年に一度という説もあるくらいで、非常に珍しい現象だ。したがって、歳時記によっては「竹の花」や「竹の実」を秋の項から省いているものもある。一生に一度見られるかどうかという「竹の花」を見れば、誰しもが作者のような心境になるはずである。ここで「量」は「かず」と読む。私は二十代のときに、一度だけ見たことがある。たまたま訪れた故郷山口県むつみ村の山々が黄変していて、ただならぬ気配であった。友人宅の縁側から、呆然として見つめた思い出……。カメラを持っていなかったのが悔やまれる。余談だが、その何日か後に下関球場で投げる池永正明投手(下関商業)を見た。投げるたびに、彼の帽子は地に落ちた。竹の花季に、彼は野球人生の絶頂期にさしかかりつつあったのである。(清水哲男)




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