October 06101997

 色付くや豆腐に落ちて薄紅葉

                           松尾芭蕉

さに日本の秋の色だろう。美しい。芭蕉三十五歳の作と推定されている。舞台は江戸の店のようだが、いまの東京で、このように庭で豆腐を食べさせるところがあるのかどうか。この句を読むたびに、私は京都南禅寺の湯豆腐を思いだす。晴れた日の肌寒い庭で、炭火を使う湯豆腐の味は格別だ。実際に、ほろりと木の葉が鍋の中に舞い降りてくる。そうなると日頃は日本酒が飲めない私も、つい熱燗を頼んでしまうのだ。たまさか京都に出かける機会を得ると、必ず寄るようにしてきた。この秋は改築された京都駅舎も評判だし、行ってみたい気持ちはヤマヤマなれど、貧乏暇なしでどうなりますことやら……。(清水哲男)




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