September 2391997

 はたをりが翔てば追ふ目を捨て子猫

                           加藤楸邨

たをりは、チョンギースと鳴く「きりぎりす」のこと。声が機を織る音に似ていることによる。捨てられた子猫も、虫が飛び立てば本能的に目で追うのだ。その可愛らしい様子が哀れでならない。実は、この子猫、作者と大いに関係がある。前書に「黒部四十八ヶ瀬、流れの中の芥に、子猫二匹、あはれにて黒部市まで抱き歩き、情ありげな人の庭に置きて帰る 五句」とあるからだ。とりあえず子猫の命は救ったものの、旅先ではどうにもならぬ。そこで「秋草にお頼み申す猫ふたつ」となった次第。捨てたのではなく、置いたのではあるが……。楸邨は常々「ぼくは猫好きではない」と言っていたそうだ。が、結婚以来いつも家には猫がいて、たくさんの猫の句がある。ふらんす堂から『猫』(1990)というアンソロジーが出ているほどだ。『吹越』所収。(清水哲男)




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