September 1191997

 向き合へる蝗の貌の真面目かな

                           松浦加古

の季節の稲田に大挙して押し寄せる蝗(いなご)は、農民にとっては天敵である。畦道を歩いていると、しばしばこちらの顔にぶつかってくるほどの数だ。現在の方法は知らないが、こいつらを退治するのに、昔は一匹一匹手で捕まえるしか方法がなかった。主として子供たちの仕事で、用意した紙袋にどんどん捕まえては入れ、そのまま焚火で焼き殺す。そんな仕事中に、たまには餌食の顔をまじまじと見てしまうということも起きた。この句のとおり、彼らは極めて真面目な表情をしている。真面目に人間に害をおよぼしているのだ。そこのところがなんとなく哀れでもあり、可笑しくもあった。蝗をうまそうに食べる人もいるが、私は駄目だ。天敵とはいえども、同じ土地の空気を吸って共に生きた間柄だからである。(清水哲男)




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