September 0691997

 とろろなど食べ美しき夜とせん

                           藤田湘子

節の旬のものを食卓に上げる。ただちに可能かどうかは別として、そのことを思いつく楽しさが、昔はあった。大いなる気分転換である。現代風に言えば、ストレス解消にもなった。この句は、ほとんどそういうことを言っているのだと思う。「とろろなど」いつだって食べられる智恵を持つ現代もたしかに凄いけれど、季節のものはその季節でしかお目にかかれなかった昔の、こうした楽しさは失われてしまった。その意味からすると「昔はよかった」と言わざるをえない。いまのあなたの「美しき夜」とは、どういうものでしょうか……。ところで「とろろ」は漢字で「薯蕷」と書く。難しい字だが、たいていのワープロで一発変換できるところが、妙に可笑しい。ワープロ・ソフトの作者も「昔はよかった」と思っているのだろうか。そんなはずはない。だから、可笑しい。(清水哲男)




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