September 0191997

 震災忌向あうて蕎麦啜りけり

                           久保田万太郎

和三十五年、死の三年前の作品である。万太郎は浅草生まれで、震災にもあい戦災にもあった。そういうこともあり、まったく物質的な執着がない人だったという。大震災からはるかな年月を経て、そば屋で当時の体験などを話しながら向き合っているのは誰だろうか。それが誰であろうと、作者はここにこうして生きてある自分の幸運をこそ味わっているのだ。この句は、万太郎門の成瀬櫻桃子が月刊「うえの」の最新号(1997年9月号)で紹介している。万太郎は常々「蕎麦は、食べると言っては駄目。啜る(すする)だ」と、弟子たちに教えていたと書いている。(清水哲男)




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