August 1281997

 塩漬けの小梅噛みつつ冷酒かな

                           徳川夢声

声は、映画弁士、漫談家として話術の大家であった。俳句が好きで、いとう句会のメンバーとなり、おびただしい数の俳句を作った。彼の句集を古書店で求めて読んだ井川博年によると、数は凄いがロクな句はないそうだ。掲句にしても、なるほどうまくはない。「それがどうしたの」という感想だが、しかし、この冷酒はうまそうである。酒好きも有名で、戸板康二は次のように書いている。「大酒家で、映画館で眠ってしまったり、放送できないので古川緑波が声帯模写で代役をつとめたという珍談もある。英国女王の戴冠式に招待されていく船の中で吐血し、晩年は停酒と称して一切アルコールを絶っていたが、酔っているようなユーモラスな口調で誰ともしたしみ、愛される人柄だった。……」(旺文社『現代日本人物事典』)。(清水哲男)




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