August 1081997

 時計屋の微動だにせぬ金魚かな

                           小沢昭一

したる蔵書もない(失礼)吉祥寺図書館の棚で、俳優の小沢昭一の句集『変哲』(三月書房)をみつけた。なぜ、こんな珍本(これまた失礼)がここにあるのかと、手に取ってみたら面白かった。「やなぎ句会」で作った二千句のなかから自選の二百句が収められている。この作品は、手帳にいくつか書き写してきたなかの一句だ。古風な時計店の情景ですね。店内はきわめて静かであり、親父さんも寡黙である。聞こえる音といったら、セコンドを刻む秒針の音だけ。金魚鉢の金魚も、静謐そのもの……。一瞬、時間が止まったような時計店内の描写が鮮やかである。うまいものですねえ。脱帽ものです。(清水哲男)




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