August 0581997

 自転車の灯を取りにきし蛾のみどり

                           黒田杏子

んで灯に入る夏の虫。虫たちの愚かなふるまいを嘲笑った昔の人も、一方では、灯を取りに来る存在として彼らの襲来に身構えるのであった。蝋燭などのか細い灯だと、たちまち彼らに取られてしまうからだ。なにしろ命がけで取りに来るのだから、たまらない。これは、ランプ生活を余儀なくされた少年時代の、私の実感でもある。そこへいくと現代の虫たちは、命と引き換えに灯を取ることもなくなった。せいぜいが打撲(?)程度ですむ。見られるように、作者もここでむしろ抒情的に灯取虫を観察している。「みどり」に見えるのは光源の関係だろう。『一木一草』所収。(清水哲男)




『旅』や『風』などのキーワードからも検索できます