July 2471997

 遠雷や父の電車は絵の中に

                           柴崎昭雄

そがれ時、一天俄かにかき曇り、遠くでは不気味に雷が鳴りはじめた。遠雷(えんらい)の方角は、ちょうど父が働いている土地の上空のようだ。「傘は持っているだろうか」と、少年は心配する。「でも、この時間ならもう電車の中だろうな」と、壁に貼った自分の絵の中の電車を見やるのである。絵の中の電車は、いつものようにのんびりと走っている……。現実に遠くを走る電車から自室の絵の中の電車へと、素早く焦点を移動させているところが魅力的だ。そして、遠くにいる父をさっと身近に引き寄せた感性の遠近法も。『木馬館』所収。(清水哲男)




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