July 2071997

 紅蜀葵肱まだとがり乙女達

                           中村草田男

蜀葵(もみじあおい)は、立葵の仲間で大輪の花をつける。すなわち、作者は「乙女達」をこのつつましやかな花に見立てているわけで、そのこと自体は技法的にも珍しくないが、とがった肱(ひじ)に着目しているところが素晴らしい。若い彼女らの肱は、まだ少年のそれと同じようにとがっている。が、やがてその肱が丸みをおびてくる頃には、女としてのそれぞれの人生がはじまるのである。戦いのキナ臭さが漂いはじめた時代。彼女たちの前途には、何が待ち受けているのだろうか。今がいちばん良いときかもしれない……。作者はふと、彼女らの清楚な明るさに人生の哀れを思うのだ。第二句集『火の島』(1939)に収められた句。この作品の前に「炎天に妻言へり女老い易きを」が布石のようにぴしりと置かれている。時に草田男三十九歳。(清水哲男)




『旅』や『風』などのキーワードからも検索できます