July 1371997

 船内に飛んでをりしは道をしへ

                           清崎敏郎

供のころは一里の道を通学していたので、この虫にはお世話になった。というよりも、退屈しのぎによく遊んでもらった。人が近づくと、飛び上がって少し先へ行く。道にそって、同じ動作を何度もくりかえす。その様子があたかも道を教えているように見えるので、「道をしへ」という。身体に細かい斑点があることから、正式には「斑猫(はんみょう・たいていのワープロでは一発変換されるほどの有名虫)」と呼ぶ。しかし、さすがの「道をしへ」も、船のなかでは役に立たない。水先案内人にはなれるわけもない。ただ習性で飛んでいるのだけれど、そんな姿に作者は苦笑している。時と場所を得ないと、人間にもこういうことは起きそうである。『東葛飾』所収。(清水哲男)




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