July 0671997

 炎昼いま東京中の一時打つ

                           加藤楸邨

けつくように暑い昼時である。普段は人通りの多い街中も、嘘のように静まりかえっている。束の間のゴーストタウンみたいだ。その静かな空間に、突然家々の柱時計がいっせいに一時の時報を打ち出す。東京中で打っている。現実の光景が、一瞬幻想的なそれに転化したような心持ち。かつての都会の真夏の光景を、斬新な技法で巧みにとらえている。なお「炎昼(えんちゅう)」という季語の使用は比較的新しく、1938年(昭和13年)に出た山口誓子の句集『炎昼』以来、好んで詠まれるようになったという。(清水哲男)




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