June 1661997

 梅雨寒の昼風呂ながき夫人かな

                           日野草城

かにも意味ありげで思わせぶりな句だが、フィクションだろう。十九歳で「ホトトギス」雑詠欄の巻頭を占めた草城には、女性を詠んだ作品が多い。代表的なのは、昭和九年(1934)の「をみなとはかゝるものかも春の闇」を含む「ミヤコホテル」連作だ。新婚初夜の花嫁をうたって、当時の俳壇では大変な物議をかもしたというが、これまたフィクションだった。こうした作家の姿勢は、たしかに古くさい俳句の世界に新風をもたらしたろうが、他方では思いつきだけの安易な句を量産させる結果ともなった。この句も道具だてが揃い過ぎていて、現代でいう不倫願望の匂いはあっても、底が浅い。山本健吉に言わせれば「才気にまかせて軽快な調子を愛し、物の真髄を凝視する根気に欠けていた」(新潮文庫『日野草城句集』解説)と、かなり手厳しいのである。なお「梅雨寒」は「つゆさむ」と濁らずに読む。『花氷』所収。(清水哲男)




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