June 0661997

 木いちごの落ちさうに熟れ下校どき

                           大屋達治

の旬(しゅん)は、野生や栽培物を問わず多く六月だ。農家だった私の家でも普通の苺は育てていたが、それよりも山野に自生している木苺のほうが美味だったように思う。黄金色に熟れた木苺は、酸味がなくて極上に甘かった。木の刺に用心しながら空の弁当箱いっばいに摘んで戻るのが、それこそ下校時の楽しみだった。句の「落ちさうに熟れ」が、いかにも木苺らしさを巧みに表現している。昔から木苺の句はたくさん詠まれてきてはいるが、木苺と子供の姿とをセットにした作品を他に知らない。不思議なことだ。サトウ・ハチローの『ジロリンタン物語』ではないけれど、大人の管理の外にある(なかには管理の内のものも含めて)ウマいものと子供とは、いつだって必ずひっついてきたものであるというのに……。それはともかく、どなたか、最近になって木苺を口にしたという「果報者」はおられますでしょうか。(清水哲男)




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