June 0561997

 紫陽花や帰るさの目の通ひ妻

                           石田波郷

郷の句が苦手だという人は、意外に多い。いわゆる「療養俳句」の旗手だからではなく、描写が「感動を語らない」(宗左近)からである。この句もそうだ。見舞いに来た妻が、つと紫陽花に目をやったとき、その目が「帰るさ(帰り際)」の目になっていたというのだが、それだけである。妻の目が、作者にどんな感情を引き起こさせたのかは書かれていないし、読者に余計な想像も許さない。冷たいといえば、かなり冷たい感性だ。しかし、私は逆に、長年病者としてあらねばならなかった男の気概を感じる。平たく言えば、人生、泣いてばかりはいられないのだ。寂しい気分がわいたとしても、それを断ち切って生きていくしかないのだから……。(清水哲男)




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