May 3151997

 鮒鮓や彦根の城に雲かかる

                           与謝蕪村

版の角川歳時記でこの句を知ったとき、まだ鮒鮓(ふなずし)を知らなかった。いかにも美味そうであり、品のある味がしそうだ。憧れた。城に似合う食べ物なんぞ、めったにあるものじゃない。とりあえず彦根東高校出身の友人に「うまいだろうなあ」と尋ねたら、「オレは嫌いだね」とニベもなかった。なんという無風流者……。そう思ったが、後に食べてみて大いに納得。私の舌には品格も何もあったものではなくて、あの臭いには閉口させられた。もともと寿司は魚の保存法の一種として開発された食物だから、鮒鮓のあり方は正しいのだ。と、頭ではわかっているけれど、いまだに駄目である。たぶん納豆嫌いの人の心理に共通したところがあるのだろう。でも、句は素敵だ。単なる叙景句を越えている。(清水哲男)




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