May 2651997

 冷酒や蟹はなけれど烏賊裂かん

                           角川源義

まは宴席などでも冷酒を飲む人は多いが、昔は燗をつけて飲むのが一般的だった。したがって、冷酒は応急的(?)宴会で飲まれたものだ。とりあえずの酒だった。急に飲もうと話が決まり、燗をつけるなどまだるっこしいことはやっていられない雰囲気。これで肴に蟹でもあれば最高だなァと誰かが言い、べらぼうめェ、蟹だって烏賊(いか)だってアシの数では同じようなものじゃないかと乱暴な論理をふりかざして、作者はスルメを裂いている。これから「さあ、飲むぞ」という酒飲み連中の昂揚感をよく伝えている句だ。それこそ「蟹はなけれど」、赤い蟹の姿まで見えてきそうな気がするところも面白い。(清水哲男)




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