May 2551997

 ひと日臥し卯の花腐し美しや

                           橋本多佳子

暦の四月は「卯の花月」。昔の人は、この頃に咲く卯の花を腐らせるような霖雨のことを「卯の花腐し(うのはなくたし)」と呼んだ。健康な人にとってはまことに陰欝な雨でやりきれないが、病者にはむしろみずみずしい生気とうつる。臥(ふ)している作者は、降りつづく雨の庭を飽かず眺めながら、心に染みいるような美しさを味わっている。心なしか体調もよくなってきた感じ……。妙なことを言うようだが、長患いは別として、人間たまには寝込むことでストレスの解消になる。煩瑣な日常生活と、否応なく切り離されてしまうからだろう。(清水哲男)




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