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May 1551997

 蕗刈るや山雨のはじめ葉を鳴らす

                           安藤五百枝

まにも降ってきそうな空の下で、おっかなびっくり仕事をはじめた途端に、やはりパラパラッと降ってきた。こんなときには、誰しもがたいした雨じゃないと思いたいところだけれど、葉に当たる音からして勢いが出てきそうな雨である。ならば、即刻ここで引き上げるべきか、それとも少しでも刈り取って帰るべきか。帰路は遠い……。見上げると、空は真っ暗だ。山の仕事につきものの天候の気まぐれ。このときの風景の色はといえば、さながら昔のソ連版カラー映画の暗緑色といったところだろうか。決してイーストマン的な色彩ではない。ところで、蕗を醤油で煮詰めた食べ物が、ご存じの「キャラブキ」だ。川端茅舎に「伽羅蕗の滅法辛き御寺かな」があり、生真面目なトーンの句だけに、思わずも笑わされてしまった。(清水哲男)


May 2251999

 泣けとこそ北上河原の蕗は長けぬ

                           岸田稚魚

木歌集『一握の砂』に「やはらかに柳あをめる北上の岸邊目に見ゆ泣けとごとくに」(原文は三行の分かち書き)がある。作者は、もとよりこの歌を百も承知で作っている。「柳」に対して「蕗」を持ってきた。このとき、稚魚は六十代半ば。若さ溢れる啄木短歌を向こうにまわして「泣けとこそ」と詠んだ作者の心根は、どんなものだったろうか。啄木の見ている北上川はあくまでも明るいが、稚魚の立っている北上河原は、曇り空の下にあるようだ。そこから「柳」も目には入るのだけれど、もっと下方にびっしりと生えている「蕗」のほうに自然と心を奪われている。成長した蕗は、暗緑色だ。たとえ陽射しがあったとしても、柳のように陽気な色ではない。ただし、暗い色をしているからといって、その色彩やたたずまいが心に染みいらないというわけではない。啄木のような若者にはわからなかったのか、あるいはわかろうとしなかったのか。ならば、ずばりと私(作者)が北上の魅力を言い当ててみせようというのが、稚魚の気概であったろう。私にも、少しはこういうことがわかるようになってきたようだ。悲しくもなし、かといって嬉しくもなし。『花盗人』(1986)所収。(清水哲男)




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