May 0251997

 逢ひにゆく八十八夜の雨の坂

                           藤田湘子

春から数えて八十八日目。「八十八夜の別れ霜」などといわれ、この時期、農家にとっては大敵の時ならぬ霜が降りることがある。この日を無事に通り抜ければ、安定した天候の夏がやってくるというわけで、八十八夜は春と夏の微妙な境目なのだ。しかし、このスリリングな日を実感として受けとめられる人は、もはや少数派。死語に近いかもしれない。したがって、この句の作者が恋人に会いに行く気持ちについても、解説なしではわからない人が多いはずだ。一年中トマトやキュウリが出回る時代となっては、それも仕方のないことである。近未来の実用的な歳時記は、おそらく八十八夜の項目を削除するだろう。(清水哲男)




『旅』や『風』などのキーワードからも検索できます