April 2041997

 初孫はいとしき獣山笑ふ

                           増田耿子

と猫を素材にした詩歌にはロクなものがない。というのが、私の持論だ。対象にべたつきすぎるからである。自己陶酔の押し売りでしかない場合が多いからだ。その意味で、この句の「いとしき」も気にはなるが、孫をずばり「獣」ととらえたところが新鮮だ。言われてみると、人間が本当に「獣」と同じである時間は、赤ん坊のときだけのような気がする。獣は山に棲む。だから、山は微笑して赤ちゃんを見守る存在だ。「山笑ふ」という季語を使った俳句という観点から見ても、異色の一句だろう。『一粒句集』第34集(電通関西支社・電通会俳句部刊)所収。(清水哲男)




『旅』や『風』などのキーワードからも検索できます