April 1641997

 頭悪き日やげんげ田に牛暴れ

                           西東三鬼

われてみると、私たちには頭の「悪い日」と「よい日」とがあるような気がする。運の「よい日」と「悪い日」とがあるように……。そんな頭の悪い憂鬱な日に、美しいげんげ田を眺めていると、猛り狂った牛が暴れこんできた。せっかくの紫雲英が踏み荒らされて台無しである。昔の漫才師・花菱アチャコの台詞ではないけれど、「もうムチャクチャでござりまするわ」の図。よくよくツイてない日だと作者はうなだれている。読者にはそこが笑えるし、そこで楽しくなる。もっとも他方では、この句を抽象的に精神の劇として読もうとする人もいると思う。が、このまま素直に実景として受けとっておくほうが、私はそれこそ「頭」にも「身体」にもよいと思うのである。(清水哲男)




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