April 1141997

 春ひとり槍投げて槍に歩み寄る

                           能村登四郎

とり黙々と槍投げの練習に励む男。野球などとは違い、練習から試合まで、槍投げは徹底して孤独なスポーツだ。野球だと、ときに処世訓めいた言葉とともに語られることもあるけれど、そういうことも一切ない。ただひたすらに、遠くに投げるためだけの行為のくりかえし。すなわち人生的には無為に近いこの行為を、作者は無為にあらずと詠んでいるのだ。春愁を通り越した人間の根源的な愁いのありかを、読者に差し出してみせた名句である。『枯野の沖』所収。(清水哲男)




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