April 0841997

 たけの子や畠隣に悪太郎

                           向井去来

く知られた芭蕉七部集のなかでも、『猿蓑』(元禄4年・1691年)は蕉風俳諧の円熟期の収穫とされるが、この句は猿蓑集巻之二・夏の部に登場する。去来の句のすぐ前に凡兆の「竹の子の力を誰にたとふべき」、すぐ後に芭蕉の「たけのこや稚き時の絵のすさび」がならぶが、いずれも理屈でもたつき、去来の直接的な明解さに及ばない。ニョキとはえ出たたけの子を隣りの土地から見つめている腕白小僧。たけの子のかわいさに柄にもなく見とれているが、じつは盗もうかいたずらしようかと悪智恵をめぐらしているようだ。俳句では古くからたけの子と子どもの連関が多く詠まれているらしいが、ここでは憎まれ小僧の"悪太郎"であるのがいかにも野趣があり、両者の対比が生きている。こうした健やかで愉快な初夏の情景が、今でもどこかに残っているだろうか。(八木忠栄)




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