April 0241997

 眼を先へ先へ送りて蕨採る

                           右城暮石

(わらび)で思い起こすのは「万葉集」の志貴皇子の次の歌だ。「石走る垂水の上のさわらびの萌え出づる春になりにけるかも」。春が来た喜びを、これほど素直にして上品に歌うことのできた人の心根がしのばれる。この歌の影響だろうか。そんなことはないはずなのに、蕨というと「和歌的な植物」と感じてしまう。対するに、ぜんまいは「俳句的植物」か。食料難に悩まされた子供の頃、蕨採りは日課であった。風流のためではなく生活のためだから、この句のようにいささか血まなこめくのであった。(清水哲男)




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