March 2931997

 借り傘に花の雨いま街の雨

                           北野平八

先で、雨に降られてしまった。「こんな傘でもよかったら」と差し出された傘を借りて帰る。他人の傘とは不思議なもので、なかなか手になじまない。女物だったりすると、なおさらである。それが桜並木を通りかかり、雨に煙る花の美しさに心を奪われているうちに、いつしか気にならなくなっていて、気がつけばもうあたりは見慣れた街の中だ。こんな雨なら、雨もいいものだ。と、自然に小さな充足感がわいてくる。平八ならではの繊細な感覚。そして、なによりも字面の綺麗さにうっとりとさせられる。『北野平八句集』所収。(清水哲男)




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