March 2231997

 春の夢みてゐて瞼ぬれにけり

                           三橋鷹女

んな夢だったのだろう。夢の心理学は苦手だが、この句に近い心持ちで目覚めたことはある。現実と同じように、夢の世界も決して自由ではない。ただ、夢の中の時空間の混乱に乗じて、ひとつの感情を現実よりも深めることはできる。センチメンタリズムの深みに、身を投げてしまうこともある。そうすると、おのずから瞼は濡れてくる。もちろん、哀しいからなのだけれど、春の浅い眠りの夢には、その哀しみにどこか甘美さが伴う。明日の朝は、そんな甘美さの残る感情とともに目覚めてみたい。(清水哲男)




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