March 2131997

 春愁や一升びんの肩やさし

                           原子公平

とえば、今日が、かつて好きだった人の誕生日だったとする。なぜか、別れた人の記念日は忘れないものだ。遠くにある人だからこその、近さだろう。関連して、昔のあれやこれやを思い出す。そのことに、しばし没頭してしまうことがある。酒が入れば、なおさらだ。普段は格別気にも留めない一升びんを、それこそなぜかしみじみと眺め入る気分にもなる。やさしい肩だなァ……。そんなふうに感じることのできる自分自身を、実は作者は哀しくも愛している。すなわち、これが春愁の正体である。『海は恋人』所収。(清水哲男)




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