March 1931997

 ひらきたる春雨傘を右肩に

                           星野立子

わらかく暖かい雨。降ってきたので傘をひらくと、淡い雨なので、身構える気持ちがほどけて、自然と傘を右肩にあてる。少しくらい濡れたっていい、という気分。だから、句では「ひらきたる春雨傘を」という順序なのである。最初から春雨を意識していたのなら「春雨やひらきたる傘」となる。ま、そんな理屈は別にして、最近では、女性が傘を斜めにさして歩く姿を、とんと見かけなくなった。混み合う道を早足で歩いている習慣から、強情なほど垂直に持つ癖がついてしまったのだろうか。女性ならではの優美な仕種が、いつの間にかまたひとつ消えていた……。傘そのものの形態は、昔からちっとも変わっていないというのに。(清水哲男)




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