March 1531997

 また春が来たことは来た鰐の顎

                           池田澄子

わずも、笑いがこみ上げてきた。鰐が長い顎に手をあてて(あてられっこないけれど)、春の再来に戸惑っている図。「何の心構えもできてないしなア……」。などと、私は漫画的に読んだが、他にもいろいろと解釈は可能だろう。というよりも、こういう句は、あまり真剣に考えないほうがよい。なんとなく可笑しい。それで十分だ。たまには、深刻度ゼロの句も精神のクリーニングに役に立つ。ただし、誰にでもつくれる句でないことだけは、押さえておく必要があるだろう。作者生来の資質全開句なのだから。「船団」(第32号・1997)所載。(清水哲男)




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