March 0931997

 蝶が来てしらじらしくも絵にとまる

                           安田くにえ

れからの季節。戸外にイーゼルを立てて、絵を描く人が増えてくる。我が家の近所では、井の頭公園、神代植物公園など。見かけると、ほほえましい気分になる。通りがかりの人は、たいていひょいと絵をのぞいていく。なかには、立ち止ってしばし筆使いをみつめる人もいる。そんな折りに、たまさか蝶が飛んできて、絵にとまったというのである。すなわち、絵に描いたような出来事が起きた……。「こいつは出来過ぎだなあ」と、作者は苦笑している。「蝶よ、そこまでやるのかよ、しらじらしいぞ」と、絵の外の偶然の絵画的光景の発見に目を細めている。これぞ、俳句の楽しさ。俳諧の妙。(清水哲男)




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