March 0531997

 新聞紙揉めば鳩出る天王寺

                           摂津幸彦

阪の天王寺界隈は、不思議なところだ。近鉄百貨店の本店があり有名な動物園があり、ゲーテ書房という本屋があり競輪選手の宿泊所があり、古風な写真館があり伊東静雄の通った中学校もあり、釜ケ崎を控え、したがって近くには通天閣があり……。たしかに手品の鳩でも出てきそうな、なんでもありの街である。それでいて、いや、だからこそか、いまいち活気には欠けており、どうしても場末という感じは拭いきれない。一読、鹿々(平凡なさま)を愛した作者ならではの着眼であり、天王寺を知る人ならば必ず納得のいく句であろう。『鹿々集』所収。(清水哲男)




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