February 1721997

 熊の子も一つ年とり穴を出づ

                           三橋敏雄

屈だけで読むと「当たり前じゃないか」というしかない句。だが、何度も舌頭でころがしているうちに、だんだん味がわかってくる。噛めば噛むほどに、味が出てくる。「熊の子も」の「も」が指差しているのは、他の冬眠する生物はもちろんだが、私たち人間の精神的な生活をも含んでいるようだ。でも、それを深刻に受け取るかどうかは読者の自由にゆだねられていて、いかにも俳句的な表現の妙を感じさせられる。「可愛らしい」と読んでもいいし、もっと生臭く読んでもいい。「俳句研究」(1997年3月号)所載。(清水哲男)




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