February 1421997

 薄曇る水動かずよ芹の中

                           芥川龍之介

かにも龍之介らしい鋭い着眼。この句は、芹を詠んでいるようでいて、詠んではいない。芹という清澄な植物に囲まれた水のよどみを詠むことによって、おのが心の屈折した水模様を描き出している。ただし「上手な句」ではあるけれども、芹(自然)とともに生きている感覚はない。同じ「芹の中」を詠んだ作品でも、蕪村の「これきりに径尽きたり芹の中」の圧倒的な自然感からは、遠く隔たっている。まったくもって「うめえもんだ」けれど、どこかで読者を拒んでいる雰囲気を感じるのは、私だけであろうか。(清水哲男)




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