February 0821997

 春暁の我が吐くものゝ光り澄む

                           石橋秀野

暁(しゅんぎょう)。春の明け方。『枕草紙』冒頭の「春は曙。やうやう白くなりゆく、山ぎはすこしあかりて……」の朝まだき。つめたい薄明かりのなかに見る「我が吐くもの」の、意外な透明感。むしろそれが美しく神々しくさえ感じられる不思議。ここで、人が「吐く」苦しさは「生きる」美しさに通じている。いわゆる「つわり」かもしれず、結核などによる血液の嘔吐なのかもしれない。が、この際は何だってよいだろう。作者については、波郷門であったこと以外は何も知らないけれど、おのれの吐瀉物を、このように気高く詠んだ力には圧倒されてしまう。俳句ならではの表現の凄さを感じさせられる作品のひとつだ。(清水哲男)




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