February 0721997

 赤椿咲きし真下へ落ちにけり

                           加藤暁台

台は十八世紀の俳人。もと尾張藩士。椿の花は、桜のようには散らずに、ぽとりと落ちる。桜の散る様子は武士のようにいさぎよいとされてきたが、椿の落ちる様は武士道とは無縁だ。花を失うという意味では、むしろ椿のほうが鮮烈だというのに、なぜだろうか。おそらくは、花そのものの風情に関わる問題だろう。椿の花はぽってりとした女性的な風情だから、武士の手本に見立てるのには抵抗があったのだと思う。それにしても、こんなに花の死に様ばかりが詠まれてきた植物も珍しい。「赤い椿白い椿と落ちにけり」(河東碧梧桐)、「狐来てあそべるあとか落椿」(水原秋桜子)など。(清水哲男)




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