February 0621997

 楽屋口水の江滝子ジャケツきて

                           星野立子

和九年の作品。このとき、水の江滝子十九歳。断髪、男装の麗人として、松竹レビューのトップスターだった。愛称ターキー。そんな大スターの素顔を、素早くスケッチした立子は三十一歳。ターキーの日常的スタイルを目撃できた作者は、おそらく天下を取ったような気分だったはずだが、その気分の高まりをぐっと抑制している句風が、実にいい。これ以上、余計な解説は不要だろう。昔はよかった(この言葉は、こういう句を読んだときに使うのである)。いまはスターならぬ人気タレントの素顔どころか裏の顔まで、テレビが写し出してしまう時代だ。「スター」なんて存在が成立するはずもないのである。『立子句集』所収。(清水哲男)




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