January 2611997

 人も子をなせり天地も雪ふれり

                           野見山朱鳥

いものの舞いはじめた夕暮れのレストランで、知り合いの若い女性に妊っていることを暗示された。急遽、結婚することにしたという。相手は私の知らない男性である。とたんにこの句を思いだし、彼女には言わなかったが、ひそやかに「おお、舞台装置も今宵は満点」と祝杯のつもりでジョッキをかかげた。もとより、この句はそのような「はしゃぎ」とは無縁のところで作られたものだ。死に近い床での自然との交感の産物である。だからこそ、逆に私は、若い彼女の出発にふさわしいと感じたのだった。妊った女性は、必然的に現実を見る目が変わる。そのときにはじめて「自然」と向き合うからだ。すなわち、みずからの身体を賭けて「自然」の意味を具体的に知るからなのである。『愁絶』所収。(清水哲男)




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