January 2411997

 風呂吹に機嫌の箸ののびにけり

                           石田波郷

呂吹は、風呂吹き大根(ないしは蕪)。少年時代は農家で育ったから、大根や蕪は売るほどあった。が、風呂吹き大根などは、社会人になるまで食べたことがなかった。はじめて、どこぞの酒房で食したときの印象は、今風の女性言葉に習って言うと「ええっ、これってダイコン?」というものだった。ちっとも大根の香り(匂い)がしなかったからだ。なんだか、とても頼りない味だった。美味とは思わなかった。「不機嫌」になりそうになった。ところが、結婚生活四半世紀になる私が、ただ一度、台所で本式に作った料理が、この風呂吹き大根というのだから、人間どこで何がどうなっちまうかはわからない。作るコツは、材料の大根をできるだけ大根らしくなく茹でることだ。そのためには、準備に手間がかかる。そんな馬鹿な料理を、忙しい昔の農家の主婦が作るわけもなかったということだろう。(清水哲男)




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