December 15121996

 をとめ今たべし蜜柑の香をまとひ

                           日野草城

女であろうが「おっさん」であろうが、蜜柑を食べたあとにはその香りが残るものだが、「おっさん」ではなかなか句にならない。この句は、あげて乙女の賛歌として構成されている。賛歌のほどは、微妙な字配りとして現れていて、「乙女」はやわらかく「をとめ」と表現され、「食べし」も「たべし」と、情景を抒情的に再現している。したがって、よまれているのは単に蜜柑を食べたあとの女の香りだけではない。若い女の精気がかもしだす自然な色気に、たまさかの蜜柑の香りに託したかたちで、俳人は目を細めているのである。ふっと、淡い欲情のようなものを覚えた瞬間のスケッチ。(清水哲男)




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