December 11121996

 一片のパセリ掃かるゝ暖炉かな

                           芝不器男

かあかと暖炉の燃えるレストラン。清潔を旨とするこの店では、床に落ちた一片のパセリでも、たちまちにしてさっと掃きとられてしまう。炎の赤とパセリの緑。この対比が印象的だ。至福感に溢れたこの句は、実は作者が瀕死の床でよんだもの。昭和四年(1929)の暮、病床の作者を励まそうと、横山白虹らが不器男の枕元で開いた句会での作品である。このときの作品には、他に「大舷の窓被ふある暖炉かな」「ストーブや黒奴給仕の銭ボタン」の二句。年が明けて二月二十四日、不器男は二十六歳の若さで力尽き、絶筆となった。(清水哲男)




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