December 09121996

 灰皿に小さな焚火して人恋う

                           原子公平

は、煙草の火をつけるのに多くマッチを使った。したがって、灰皿には吸殻とは別にマッチの軸が溜まっていく。人を恋うセンチメンタルな気分になって、作者はなんとなく溜まったマッチの軸に火を放ったのである。これが、実によく燃える。まさに小さな焚火だ。その炎のゆらめきを見ていると、懐しい人との思い出がきらめくように浮かんでくる。ポーランド映画『灰とダイヤモンド』で、主人公が酒場のグラスのウィスキーに次々と火をつけ、死んだ同志をしのぶ場面があった。炎は、どこの世界でも、人の心を過去に向かわせるのか。『海は恋人』所収。(清水哲男)




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