November 27111996

 河豚刺身何しんみりとさすものぞ

                           中村汀女

豚(ふぐ)は、足を運んで外に食べにいく魚である。高価だから、決心して食べにいく魚でもある。だから、いよいよ河豚の皿を前にしたときの気持ちは、普段とは違っていささか高ぶっている。人間には妙なところがあって、こういうときにはただ喜々としていればよいものを、逆に何だかしんみりとしてしまったりする。そんな理由は、とりあえず何もないというのに……。どうしてなのか……。庶民ならではの哀感。でも、こういう人を、私は好きですね。それにしても、ここ何年かの私は、河豚刺身なんぞは食べたことがない。この冬には、一大決心をせねばなるまい。(清水哲男)




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