November 24111996

 毛皮ぬぎシャネル五番といふ匂ひ

                           杉本 寛

の場合「香り」ではなくて「匂ひ」でなければならない。その理由は、作者自身が書いている。「ホテル・オークラでの所見。勿論私に香水の種類は解らないが、同行の友が教えてくれた。モンローの下着代わりと、わざわざつけ加えて」。つまり、野暮な男どもの好奇の対象としてのシャネルなのだから、「匂ひ」でなければ句が成立しないのだ。香水といえば、タクシーの運転手の話を思い出した。「我々の最大の敵は煙草の煙じゃありません。女性の香水の匂いなんですよ。涙は出る、ひどいのになると吐き気までしてきます。でもねえ、まさかお客さんに、風呂に入ってきてから乗ってくださいよとも言えませんしね……」。(清水哲男)




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