November 21111996

 比良初雪碁盤を窓に重ねる店

                           竹中 宏

良は、琵琶湖の西岸を南北に走る地塁山地。近江八景の比良の暮雪は名高い。商売になっているのか、なっていないのか。いつもひっそりとしている店が、初雪のなかで一層静かに小さく感じられる。窓越しに見える積み上げられた商売物が、この小さな町で生きてきた店の主人の吐息を伝えているようだ。どこか田中冬二の詩情に通うところのある世界である。作者は私の京大時代の後輩にあたるが、名前と作品は彼が高校生だったころから知っていた。すなわち、彼は十代にして「萬緑」投稿者の優等生だったということ。一度だけいっしょに中村草田男に会ったことがある。二人とも詰襟姿で、ひどく緊張したことを覚えている。俳誌「翔臨」(竹中宏主宰)26号所載。(清水哲男)




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