November 12111996

 一樹のみ黄落できず苦しめり

                           穴井 太

落(こうらく)を、このようなアングルからとらえた句も珍しい。なるほど、普通のことを遅滞なくできない樹は、さぞや苦しいことだろう。人生の場に移して思えば、思い当たることはたくさんある。動植物を人間になぞらえる手法に、私は冷淡なほうだが、ここではなぞらえることのほうが、むしろ自然に感じられてしまう。この句を知ってしまったからには、誰だって落葉を見る目は変わるはずである。『原郷樹林』所収。(清水哲男)




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